こんにちは、田中です。
ジュニアアスリートにより良く成長してもらうにはどうしたら良いでしょうか?
”運動神経が良い”人はどんな運動経験をしているのでしょう?
今日は、ジュニア期に「動作をみがく」という観点から考えてみましょう。
スポーツとバイオメカニクス(生体力学)
スポーツ・トレーニングの理論は、昔とは大きく変わりましたね。
20世紀後半、スポーツによる国威発揚が盛んになり、スポーツ研究がすすみました。
2000年前後からでしょうか。
日本の大学にもスポーツ科学系の学部が沢山できたのを覚えています。
これらの期間で研究されているのは「スポーツバイオメカニクス」です。
トレーニング理論はこの頃から大きく変わり始めたと言えます。
データを分析できる時代に
2000年前後というのは、コンピュータ技術も発達した時期と重なります。
録画技術の向上やコンピュータでの動作解析も、人間の動きの分析に一役買いました。
たとえば野球界においては、こんな変革がありました。
「フライボール革命」です。
それまで野球のバッティングでは、グラウンダー(地面をバウンドする打球)を打った方がヒット率が高いとされていました。
しかし、打球の性質とバッティング結果をを分析したところ、打撃理論がそれまでとは逆転。
グラウンダーではなく、フライ(宙高く上がる打球)を打った方がヒット率が高い事が分かったのです。
これは「フライボール革命」と呼ばれています。
力学的な考え方でパフォーマンスをとらえる
力学的な考え方でパフォーマンスを捉える
現在では、ジュニア世代の育成にも、バイオメカニクス(生体力学)に基づいた運動指導が求められています。
スポーツにおける「パフォーマンス」。
よく聞く言葉ですが、これは具体的に何でしょうか?
競技の中で、能力を発揮する事。
さまざまな要素はあるにせよ、スキルとパワーが高いほどパフォーマンスは向上します。
スキルとパワーは、別の事のようで切り離せない要素です。
「自分が発揮した力を効率よく物体に伝えること」はスキルだからです。
力を伝える対象としてイメージしやすいのは、主にはボールや器具、相手選手などでしょうか。
また、地面に対して力を発揮することで、その反作用により、跳んだり走ったりしている事も分かるでしょう。
「作用ー反作用の法則」ですね。
ジャンプ(跳ぶ)やラン(走る)はスポーツにおける基本的な「スキル」なのです。
動作には「質」がある
それでは、力を十分に伝達するうえで無視できないものは?
それは"Movement"(動作)の質です。
生体力学にかなった質の高い動作は、スポーツ動作を効率的にします。
そのため、近年のアスレチックトレーニングでは「動作を鍛える」ことをスタート地点とします。
'動作'を鍛える
アスリートがトレーニングルームでおもりを使って運動している。
そんな映像を見た事がありますか?
あれが、すべて筋肉量を増大させるマッチョなトレーニングであると思ったら、それは誤解です。
多くの場合、彼らは「動作を鍛える」トレーニングをしています。
(もちろん、重い選手が有利なコンタクトスポーツでは筋肉量増加のためトレーニングも行います)
たとえばスクワット。
あれは脚の筋肉を大きく肥大させる目的だけのトレーニングではありません。
どうしたらより良く地面に力を伝えられるか。
その感覚を学ぶトレーニングなのです。
ジャンプもランも、自分の力を地面に伝えて、反作用によって体を動かすという「スキル」です。
スクワットは、筋肉増量トレーニングではなく、ジャンプやランの基礎になる「動作を鍛えて」いるのです。
ジュニア選手こそ'動作を鍛える'べき
「動作を鍛える」ことは、ジュニア選手にとって大変重要です。
何故かというと、ジュニア時代には他の体力要素は鍛えにくいからです。
他の体力要素とは「筋肉量」「持久力」などです。
子供は、筋肉増量や持久力アップのトレーニングを大人と同じようには行えません。
筋肉量はホルモンの関係で高校生以降にならないと増えにくいです。
だいたいの中高生は、成人男性と比べると「線が細い」ですよね?それです。
持久力トレーニングが得意ではないのは。体内の熱を放散する能力が追い付かないからです。
年齢が低い子ほど、運動中すぐに熱がこもってしまう様子が分かるでしょう。
しかし動作の習得能力は、就学年齢(7歳くらい)で大人の80%に達します。
つまり、動きが学習する能力は、大人も子供も大差ないのです。
そのため、スポーツへの導入年代においては、持久力や筋肉増量よりも「動作」を磨くことが大切なのです。
動きの「質」と「量」
ここでいう「動作を鍛える」とは動きの「質」を高めることです。
それに対して、筋肉量や持久力は、動きの「量」にあたります。
動作に「質の良し悪し」がある事は、トレーナーでなくても直観的に理解できるかと思います。
なぜなら、一般の人でも「あの人は運動神経が良い/悪い」のような感覚で話している事があるからです。
冒頭の話にもどりますが、「運動神経が良い」とは、動作が良く磨かれていることではないでしょうか。
まずは基礎的な動作パターンを
まずは基本的な’動作パターン’を
スポーツ動作の土台をなすのが、基礎的な動作スキルです。
これは「走る、跳ぶ、方向転換、物を投げる(蹴る)」などです。
これらは、各々の競技に特化していない一般的な動です。
こういった動作パターンは、幼児期~小学生くらいでも磨くことが出来ます。
遊びが動きを育てる
では、動作を鍛えるにはどうしたら良いでしょうか?
幼児期~小学校低学年くらいの間は、形式ばったトレーニングはほとんど出来ません。
フォームを説明して、何回もやらせたらどうでしょう?
子供は飽きてしまいます。
しかし、さまざまな体育遊びを通じて動作を習得することは出来ます。
色んな遊びをする事で、いろんな動き方が出来るようになります。
いろいろな動き方ができると、動作の許容範囲が広がります。
また、「できる」という感覚は、運動に対する得意意識を持たせてくれます。
遊びのなかで「出来た」「もっとやってみたい」という自信や興味を入り口にして、スポーツへの導入ができると良いですね。
"動き"はスポーツメディカルでも重要
まず「質の高い動作」という広い土台をつくり、そこに量的なトレーニング(持久力や筋力)を積み重ねる。
それによってパフォーマンスが高まります。
逆に言えば、狭い土台の上には高いトレーニング成果は積み上げにくく、無理をすれば故障に繋がります。
動作に余裕がある事がバッファーとなって、外傷や故障の発生確率が下がると言われています。
小学生くらいまでは複数競技に取り組む方がいい
そのため、幼児期から小学校低学年くらいまでは、様々な動作パターンを経験することが大切です。
低学年くらいまでは、マルチスポーツ(複数の競技を経験する事)が推奨されます。
12歳で一つの競技のスペシャリストになるよりも、スポーツ万能を目指す。
その方が、その後の成長期の伸びしろが大きいと言われます。
また、同じ競技のトレーニングをひたすら繰り返すことによるバーンアウト(燃え尽き)も少ないでしょう。
ひとつの競技で行き詰ったときの「自分の別の一面」も作ってあげられます。
ただ、一つのスポーツを早くから一生懸命おこなうのが悪いわけではありません。
実際のところ、大人数でおこなう球技などでは、早めにチームに入った方が良い事もあります。
ボールを扱うスキルから、試合のルール、ゲーム進行や状況判断まで、子供が一遍に習得するのは大変です。
競技によっては「ゲーム内容を簡略化した3年生以下の大会」で、楽しく競技への導入ができます。
これは早く競技を始める事のメリットでしょう。
色々な動作が上手にできる方が良い
さまざまな体の使い方ができると、各々の競技に特有のスキルを習得するのに有利です。
そういう子は成長期に入って特定の競技に専念してからの伸びしろが大きいです。
また、そのスポーツのスキルをより精度高く実行できる傾向があります。
たとえば、サッカー選手でも、上半身の使い方は上手でないといけません。
強いキックの際には、上・下半身を連動させて体が回転するのを抑制し、動作をコントロールします。
また、相手選手とボールを取り合う際には上半身の支持・安定性が求められます。
雲梯(うんてい)や逆立ち・鉄棒などができる子は上半身の使い方や下半身との連動もうまいと感じjます。
こども園や小学校にこれらの遊具がある事には意味があるのだと思います。
この話の続きはまた次回
ここまで話の一般化のために、動作やスキルという言葉の意味をあいまいにして話してきました。
そのため、動作・スキルという言葉に誤解が生じているかもしれません。
スポーツにおいて動作はスキルであり、性質上2つに分けられます。
基礎的動作スキルと、競技特異的な動作スキルです。
詳しい説明をすると長くなりそうなので、それはまた次回に譲ります!
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参考にした書籍はこちら↓
- アスレティック・ムーブメント・スキル −スポーツパフォーマンスのためのトレーニング/Clive Brewer (著), 広瀬 統一 (翻訳), 岡本 香織 (翻訳), 干場 拓真 (翻訳), 福田 崇 (翻訳), 吉田 早織 (翻訳)
- ムーブメントーファンクショナルムーブメントシステム:動作のスクリーニング,アセスメント,修正ストラテジー/Gray Cook (著), 中丸宏二 (翻訳), 小山貴之 (翻訳), 相澤純也 (翻訳), 新田 收 (翻訳)
この記事を書いたのは…
田中陽祐(たなかようすけ)
柔道整復師・スポーツトレーナー。にいさと接骨院×からだラボ 院長。
包帯やテーピングを巻くのが大好き。趣味はランニング、山登り。
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コーチ・トレーナー・メディカルの職種の垣根を越えて、活発な意見交換ができると良いと思います。
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