こんにちは、田中です。
前回に続いて、スポーツのパフォーマンスを高めるというお話です。
前回の内容は、こんな感じでした。記事のリンクも貼っておきますね。
- 筋力や持久力に先立って「動き」を鍛えることが大事
- 小学生くらいまでは基礎的なスキルを重視し、多種多様な動作を身に着けよう
今回は、基礎的な動作スキルと競技特異的な動作スキルについてのお話しです。
むずかしい用語が出てきて、一瞬よむのを躊躇した方。
大丈夫です。
分かりやすく解説しますから。
動作スキルとは何か
基礎的な動作スキルというのは、スポーツ全般の土台となるスキルです。
具体的には「走る、跳ぶ、方向転換、投げる(蹴る)」などです。
これらは、広くスポーツ全般にわたって必要な技術です。
それ対して、競技特異的な動作スキルとは、それぞれの競技に必要な専門的なスキルです。
例えば、サッカーのドリブル、バスケットボールのシュート、野球の走塁の技術。
これらは、それぞれ別の競技では使わない競技特有の技術と言えますね。
そして、競技特異的なスキルは、基礎的な動作スキルが下敷きになっている事に注着目してください。
基礎的な動作スキルから、競技特異的なスキルへ
スポーツ技術を高めていくうえでは、土台となる’基礎的な動作スキル’の出来が重要です。
パフォーマンスをピラミッドとしましょう。
狭い土台の上に、高く積み上げることは出来ません。
ジャンプがぎこちないのに、バスケのジャンプシュートの精度は高い、というのは考えにくいでしょう。
そう考えると、この2つの名前のスキルに境目はなく、地続きになっている事が分かります。
基礎的な体の使い方を身に着ける
例えば「投げる」という動作を考えてみましょう。
投げる動作は、全身のバネを使って、物を遠くに飛ばす技術です。基礎的な動作スキル。
でも、同じ「投げる」動作でも、やり投げと野球のピッチャーでは投げ方が違います。
それぞれの投げ方は競技特異的な動作スキル。
ちなみに、体のバネを使わず、手で投げるのが「手投げ」ですね。
投げるという基礎的な動作スキルは、小学校低学年くらいにまでに上手に出来るようになります。
遊びの中で身に着けるのですが、物を投げる遊びが少なかった子はボール投げが苦手なことが多いです
「バネを使って物を投げる」ことを身に着けてから、野球などの競技特異的なスキルを磨く方が良いでしょう。
その感覚がないまま、「フォーム」という形式を教え込もうとすると、手投げになりやすいと思います。
遊びの中で基礎的な動作スキルを高めることが、結果的に競技スキルを高めるのです。
小学校低学年でやることは…
ちなみに、小学校低学年くらいまでの子供は、投げるときに細かいコントロールをするのが苦手です。
これは子供の発達過程がそうなのであって、個人の技量の問題ではありません。
そのため、細かいコントロールを要求されると「手投げ」になります。
手投げにならないためには、最初はコントロールは一旦置いておき、できるだけ遠くに投げる練習をしましょう。
そうすると、体のバネを使って投げる感覚が身につきやすいと思います。
全身を出来るだけ大きく使う練習は、他の競技においても同じです。
この話は、別の記事の中でしましょう↓
いろいろな体の使い方ができるから専門の競技が上手くなる
パフォーマンスはピラミッドです。
「いろいろな動きが出来る」という広い土台があるから、競技特有の動作スキルを高く積み上げられます。
なので、小学校の低学年くらいまでは「基本的な体の使い方」の練習も取り入れた方が良いでしょう。
そこから地続きになるように、競技に特化した実践スキルに導入できると良いと思います。
近年のスポーツでは、低年齢から特定の競技「だけ」に専念させるエリート教育が多く見受けられます。
早く始めれば、他人より上手くできるので、自信をつけさせてあげられます。
しかし、低学年から特定の実践的スキルばかり練習していると、高学年ですでに頭打ちになっている子もいます。
「自分は人より上手くできる」と思っていたのに、だんだん人と同じレベルになってくるとモチベーションが下がります。
もしそうなった時には、ぜひ違う競技にも触れさせてあげてください。
遊びが基礎的な動作スキルを育てる
さて、基礎的な動作スキルの質を高めるためには、できるだけ全身筋力を使った大きい動作をさせることが大事です。
ボール投げやキックでいえば、細かいコントロールは多少あと回しにしても「できるだけ遠くに飛ばしてみよう」が大事。
この時期の子供が、全力で、飽きずに取り組むには、楽しさとか夢中になれるような要素が必要です。
ゲーム形式とか、適度な競争が子供の全力を引き出します。
たとえば下の写真の子供たちはどうでしょう。
彼らは知らぬ間に、動作スキルを磨くトレーニングをしています。
全力の鬼ごっこの中には「加速・減速・方向転換」などのスキルが詰まっています。
支持基底面と重心をコントロールして、体を思った方向に素早く移動させる。
一見何でもないように見えて、それらの動きは立派な技術なのです。
大人のトップアスリートが、ボールを使うより前にその練習をするのを見た事があるでしょう?
幼児期から低学年くらいまでは、このような形式ばったトレーニングは難しいです。
しかし、夢中でゲームをする中で動作習得は始まっているのです。
そしてもう一つ大事な事として、この時期は「自分にはできる」という自信や自尊心を高めてあげる事が大事です。
勝ったり負けたりするような適切な競争は、自尊心ややりがいを高めてくれます。
子供の動作スキルを高めるために、楽しい体育遊びはとても有効なのです。
このあたりのお話はこちらの記事で詳しくしています。↓
スポーツを通じたフィジカルリテラシー教育
幼児から小学校低学年くらいまでは、基本的な体の使い方を学ぶのに良い時期です。
一方、持久力や筋力の向上は、成長期前期~後期の方がさかんです。
まず「動き」を鍛えるというのは、この点からも言えることです。
体を上手に使いこなす事を、近年では「フィジカル・リテラシー」という言葉で表します。
フィジカル・リテラシーの高さを求められるのは、スポーツ選手や子供だけではありません。
むしろ子供よりも大人のあなたの方が、体の使い方に疎くなっていませんか?
子供のフィジカルリテラシーを高めると、将来にわたる筋骨格系の故障リスクを軽減できると筆者は考えます。
「スズメ百まで踊り忘れず」と言いますが、生涯スポーツの礎は前半生の運動習慣にあります。
高齢になっても自立生活をおくれる「健康寿命」を伸ばすことも、スポーツの持つ教育的・社会的側面の一つだと私は思います。
さて、次回はジュニア・アスリートの発達段階に合わせたコーチングについてお話をします。
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参考にした書籍はこちら↓
- アスレティック・ムーブメント・スキル −スポーツパフォーマンスのためのトレーニング/Clive Brewer (著), 広瀬 統一 (翻訳), 岡本 香織 (翻訳), 干場 拓真 (翻訳), 福田 崇 (翻訳), 吉田 早織 (翻訳)
- ムーブメントーファンクショナルムーブメントシステム:動作のスクリーニング,アセスメント,修正ストラテジー/Gray Cook (著), 中丸宏二 (翻訳), 小山貴之 (翻訳), 相澤純也 (翻訳), 新田 收 (翻訳)
この記事を書いたのは…
田中陽祐(たなかようすけ)
柔道整復師・スポーツトレーナー。にいさと接骨院×からだラボ 院長。
包帯やテーピングを巻くのが大好き。趣味はランニング、山登り。
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コーチ・トレーナー・メディカルの職種の垣根を越えて、活発な意見交換ができると良いと思います。
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