本日も「子供の運動発達とスポーツ」のお話です。
このシリーズも4回目になりました。
今日は成長期中期(中学生)の運動についてです。
できるだけ専門用語を使わずに解説しますので、是非ついてきてくださいね。
途中からだと分かりにくいと思うので、こちらの記事も是非どうぞ。
身体的変化の大きい時期
この時期は、身長の伸びがピークに達する選手が多くなるでしょう。
あるいは、女子は身長増加のスパートを既に経験しているとも思います。
下の図を見てください。
標準化成長曲線というものです。
一生のうち一番背が伸びる1年を基準として、その前後6年の「年間の身長増加量」を標準化しています。
簡単に言えば、何年間で、どのくらい背が伸びるかの平均的数値です。
基準になる「0」の年は人それぞれ違います。
女子なら10~12歳、男子は12~14歳あたりで成長スパートが来ます。
多い年では年間9㎝ほど身長が伸びることもあります。
- 身長増加スパートが始まる点がTOA(take off age)
- その後の一番背が伸びる一年をPHA(peak hight velocity age)
- 身長の伸びが1cm/年以下になり、身長がほぼ決まるのがFHA(final hight age)
この3つの点でフェーズ(局面)をⅠ~Ⅳに区切っています。
成長期中期は、phaseⅡにあたる事になります
身長の急激な増加は、体の使い方に大きな変化をもたらします。
手足や体幹部が長くなり、目線の高さや重心の位置も高くなります。
いままで認識していた空間の感覚と違うため、動作が不器用な感じになる選手が現れます。
急激な成長により、空間認知能力と運動制御が上手くいかなくなるのです。
この成長期に特有の「動作がぎこちなくなること」をクラムジー(clumsy)と呼んだりします。
また、成長期前期から引き続きの問題で、発達の速度には個人差があります。
発育・発達の個人差を考慮した、個別的なプログラムを考える必要が生じるでしょう。
先を見すえた運動能力開発を
この時期は、アスリートとしての基礎を築く時期です。
身体能力を充分に引き出し、高める事を目的に、トレーニングや練習のメニューを考えましょう。
たしかに戦術面の練習を入念に行えば、試合で良い結果を得やすいかもしれません。
しかし、この時期に身体能力を充分に引き出してもらわなかった選手は、のちに伸び悩む可能性があります。
戦術の練習も適切に行いつつ、フィジカルやアジリティのトレーニングも行いましょう。
フィジカルやアジリティについては、前回の記事も参考にしてください。
成長期中期の身体特性とリスク
成長期中期(中学生)の時期は、体の成長に多くのエネルギーを割かれます。
運動後は充分なリカバリーが必要です。
とくに中学生では7~8時間程度の睡眠が推奨されています。
極度の偏食を避けて、バランスの良い食事を心がけましょう。
身体的な変化として、女子はスポーツ動作中に膝が内側に入る「ニーイン」を起こしやすくなります。
ニーインとは下図のような状態です。
骨盤が横に広くなり、接地している脚の角度が大きくなるので、膝が内側に入る動作エラーが起きやすくなります。
ここでは、ランジの動作で示していますが、同じことがスポーツ動作時におきます。
すねの内ねじりが起きるので、中学生の女子ではシンスプリントなどの症状も起きやすいです。
ニーインが引き起こす症状や、改善方法はこちらの記事をご覧ください。
また先述のクラムジーの話のように、体の変化によって運動制御が上手くいかない事もケガや障害のリスクを高めます。
身長増加によって重心の位置が変わるので、重心コントロールの練習を行うと良いでしょう。
たとえば、スクワットやランジから「止まる・方向転換」などのアジリティドリルに移行します。
これは、成長期前期から引き続きの課題ですね。
また、ランニング・ジャンプ時のなどの着地不良のために故障する選手が多くいます。
ランニング時の接地を身につけるドリルなども段階を踏みながら行いましょう。
基礎的動作スキルからフィジカルトレーニングへ。さらに競技スキルまでをリンクできるメニュー作りが重要です。
基礎的動作スキルと競技スキルの解説はこちら↓
故障の種類としては、骨端症など骨の損傷が減っていき、筋肉や腱の損傷・炎症が増えてきます。
具体例で言うと、セーバー病がアキレス腱周囲炎に、オスグッドが膝蓋腱炎(ジャンパーズニー)に変わります。
予防にはやはり、ランニング・ジャンプの着地不良や、止まる・方向転換などの身体コントロールの練習が重要です。
筋肉の変化と筋力トレーニング
成長期前期と違って、ホルモンバランスの変化による筋力の向上がおこります。
パワーの向上により、小学生の時よりも競技動作が向上します。
成長期中期の段階では、段階的なウェイトトレーニングを行いましょう。
それがパフォーマンス向上とケガの予防になります。
ただ、この時期のトレーニングでは筋肉の量を増やすことを目標にしない方が良いでしょう。
それは成長期後期以降に行われるべきことです。
スポーツの場面においては、おおきい力を出せる事よりも、素早い力発揮が重要です。
段階を踏みながら、ジャンプを含めたプライオメトリクス・トレーニングを行うのも良いでしょう。
ボックスジャンプを行うためには、動作的に正しいスクワットが出来ることが重要です。
伸張反射(腱が伸ばされた直後に素早く収縮しようとする反射)を使ったドリルも有効です。
この年代のトレーニングでは、基本的な動作と、効率的な力発揮を身につけることを目標にしましょう。
このあたりの内容は、また別の記事で詳しく解説します。
接地や方向転換のスキル向上
アジリティのドリルは小学生の頃から行っている選手が多いと思います。
成長期中期には、運動に対してさらに力学的な理解を促せるはずです。
ランニング時の接地の仕方、ジャンプと着地、加速・減速・方向転換などのアジリティスキルの理解度を深めましょう」。
これは競技技術のコーチよりも、トレーナーが専門性を発揮する場面かもしれません。
身体能力を引き出す運動の種類
この時期の選手の特徴には「持久力の伸び」もあります。
成長期前期には、身体的な特徴から、持久的な運動は得意ではありませんでした。
中期になると、持久力もぐっと伸びてきます。
下図のとおりです。
ただ、持久力を高めるための運動には注意が必要です。
多くのスポーツにおいて、持久力のトレーニングは「ジョグ」や「低速度での長距離ランニング」です。
しかし、この方法には問題があります。
低強度の運動で長時間トレーニングを行う様式ばかりだと、力強い動きが苦手になる事です。
どんなスポーツにおいても、高強度の運動が求められる瞬間があります。
長距離走でも、スパート時はほぼダッシュになります。
この問題を解消するために、高強度で低トレーニング量のインターバルトレーニングを行うと良いでしょう。
その競技に必要な距離を、全力の70~85%くらいの力でショートダッシュします。
あくまで数本を数セット行う程度にしましょう。
セット内では短いインターバルで行い、セット間のリカバリーはしっかり取りましょう。
これを行う前には、動く際の可動域が広がるようなドリルを行っておくことが大切です。
この年代の選手は、柔軟性・可動性の維持が損なわれやすいので、可動域を広く使うアップが必要です。
そして、このインターバルメニューは毎回は出来ないでしょう。
身長増加スパート中のアスリートは、成長に多くのエネルギーを割いているからです。
一週間のなかでメニューに強弱をつけて、選手が体を充分にリカバーできるようにしましょう。
まとめ
いかがでしたか?
回を重ねるごとに基礎知識が必要になり、少し難しくなってきた感じでしょうか。
成長期中期の身体的特徴とスポーツトレーニングについて簡単にまとめてみましょう。
- 成長期中期(中学生)はアスリートとしての基礎をつくる時期
- 戦術面の練習に偏りすぎず、身体能力を引き出せるトレーニングを行う
- 体の成長にエネルギーが割かれるので、充分なリカバリーが必要。
- 基本的な動作(スクワットやランジ)をトレーニングし、加速・減速。・方向転換などのアジリティドリルにつなげる
- 基礎的な動作スキルから、ランニング時の接地、ジャンプや着地のスキルトレーニングにつなげる
- トレーニングは「筋肉量の増加」ではなく「すばやく効率的な力発揮」に焦点を当てる
- 持久性のトレーニングは「低負荷・長時間」ではなく「高強度・低トレーニング量・短インターバル」
次回は、成長期後期の運動発達とスポーツについてです。
できるだけ一般の保護者の方にも分かる内容にまとめていきますので、引き続きお読みください。
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この記事を書いたのは…
田中陽祐(たなかようすけ)
柔道整復師・スポーツトレーナー。にいさと接骨院×からだラボ 院長。
包帯やテーピングを巻くのが大好き。趣味はランニング、山登り。
参考にした書籍はこちら↓
- アスレティック・ムーブメント・スキル −スポーツパフォーマンスのためのトレーニング/Clive Brewer (著), 広瀬 統一 (翻訳), 岡本 香織 (翻訳), 干場 拓真 (翻訳), 福田 崇 (翻訳), 吉田 早織 (翻訳)
- ムーブメントーファンクショナルムーブメントシステム:動作のスクリーニング,アセスメント,修正ストラテジー/Gray Cook (著), 中丸宏二 (翻訳), 小山貴之 (翻訳), 相澤純也 (翻訳), 新田 收 (翻訳)
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