今回から4回にわたって「足が速くなる走り方トレーニング」というお話をします。
むずかしいスポーツ力学の話を、トレーナーが分かりやすく解説。
選手の皆さんや指導者の方、一般のお父さんお母さんも「なるほどね~」と楽しめる記事にしますね。
まず今回は基本編。
スポーツごとに違う「足の速さ」について一緒に考えてみましょう。
実践編は2回目以降です。
そっちを先に読んでも良いと思います↓
「速く走れる」を実際のスポーツのパフォーマンスにつなげたい方は、出来るだけこの第1回も読んでください。
「速く走れる」は生まれ持った素質か?
指導者や保護者の皆様に、まずこの点をお伝えしたいです。
足の速さを決めるのは、遺伝などの先天的要因だけではありません。
速く走る能力は、むしろ後天的に習得・強化できる部分が大きいです。
基本的な体の使い方の上手さとか、専門的なランニング技術の習得によって、早く走れるようになります。
「走る」というのは、すべてのスポーツ競技の土台になる「基礎的な動作スキル」です。
競技によって必要なランニング技術は違いますが、根本的な「走動作」のメカニクスは共通する部分が多いです。
ランニング技術を身につける際の考え方
ランニングの技術を身につけるには、次のような考え方が大事です。
- 走る時に「力」がどう働いているか知る
- 基本的なトレーニングで、力が上手に伝わるような体の使い方を習得する
- 上手な体の使い方をランニング動作に結びつける
これだけ見るとフワッとして意味が分かりにくいと思います。
具体的にどうやってトレーニングするかは、次回「足が速くなるスポーツ理論②」でご案内するようにします。
何故かというと、その前に今回の記事で考えないといけない事があるからです。
それは「どんな足の速さを身につけたいのか」です。
スポーツにおける「速さ」とは何か?
スポーツにおける「足の速さ」は色々あります。
次の1~4は、それぞれ足の速さの性質が違います。
どう違うのか一緒に考えてみましょう。
- 100m走のタイムを短縮するための速さ。
- 野球で盗塁を決めるための足の速さ。
- サッカーで守備→攻撃に転じるときの切り返しの速さ。
- バスケで相手ディフェンダーをかわしてゴール下に切り込む速さ。
求められる「速さ」は競技ごとに違う
どうでしょう?
なにか考えは浮かびますか?
ちなみに私はこんな風に考えます。
1が2~4と違う点は、加速した後にトップスピードで走っている時間が長いことです。
トップスピードに達したあとで、速度を維持する練習が必要になります。
また、スタート合図に対しての「反応速度」もスポーツにおける「速さの尺度」のひとつです。
2における速さとは「加速する技術」の高さを指します。
速度「0」の状態から、ピッチャーの投球モーションに反応して爆発的に加速します。
100m走と違ってトップスピードを維持する時間はほぼ無いので、加速する技術の習得が重要になります。
アジリティやフットワークも「足の速さ」?
3のような能力は「アジリティ」といいます。
守備から攻撃に転じる際には、走っている状態から急激に減速・停止し、反対方向に再加速します。
この「アジリティ能力」もスポーツにおける「速さ」の要素です。
アジリティ技術における体の使い方は、ランニング技術と共通する部分が多いので、同時に磨くと良いでしょう。
アジリティ練習も「基本的な体の使い方」がちゃんと出来ている事が大事です。
上手く動けていない選手が「こなすだけ」になっている場面が見受けられます。
アジリティトレーニングが競技パフォーマンスに繋がっていない事が多く、もったいないなと感じます。
競技を始めたての選手の場合、きちんとアジリティを向上するとパフォーマンスUPしやすいです。
50m走のタイムを1秒縮めるのも、切り返しを1秒早くするのも、どちらも同じ1秒の短縮です。
1秒早く走るのは大変ですが、1秒早く切り返すのは出来る場合が多いのです。
アジリティの話は連載の4回目でしようと思います。
4の速さは「フットワーク」です。
ゴール下という特定の位置まで、どれだけ短い時間・少ない歩数でたどり着くかという「速さ」です。
フットワーク技術の向上は、その後の動作を有利に行えるようにしてくれます 。
バスケの場合は、相手に邪魔されずにシュート動作を行えます。
テニスやバドミントンでは、より良い体勢でショットを打てます。
これらは単純な走る動作ではないですが、技術としてはランニング技術と隣接しています。
ランニングの技術と同時に磨くと良いでしょう。
このように、スポーツによって必要な「足の速さ」は違います。
スポーツで足を速くするトレーニングをする場合、最終的にどんな「速さ」に結び付けるか考える事が大切です。
足を速くするトレーニングのコンセプト
スポーツ競技において「もう少し足が速ければなぁ」という場面はあると思います。
そして、その「足の速さ」は、競技によって必要な要素が違います。
なので競技や場面ごとの専門的なトレーニングは必要です。
競技に特化した走り方の練習です。
しかし一方で、足の速さを向上するための根本的な体の使い方というのもあります。
それは「いかに効率よく地面に力を伝えるか」という事です。
「上手な力の発揮と伝達」を身につける事は、スポーツのパフォーマンスUPにおいて土台になります。
ジュニアアスリートの皆さんに役立つことは
この記事にたどり着いた方の多くは、ジュニア期のお子さんや保護者の方だと思います。
成長期のアスリートには、上述のような力の発揮と伝達を意識した基礎トレーニングが必要です。
スポーツの土台となる「基本的な体の使い方」ができる方が、パフォーマンスの伸びしろが大きくなるからです。
競技の専門的な技術はコーチが教えてくれます。
しかし「基本的な動作メカニクス」を教えてくれる指導者は少ないのではないでしょうか。
この「基本的な体の使い方」を競技動作に結び付けるのが4回にわたる連載の目的です。
第2回目は「ランニングのメカニクス」についてになります。
「効率的に地面反力を得る」方法について解説しています。
スポーツ力学的の話を出来るだけ分かりやすく解説したいなと思っています。
どうぞ引き続きご覧頂ければ幸いです。
今回のまとめ
今回は「足の速さ」を手に入れるための基本的なお話をしました。
まとめるとこんな感じです。
- 足の速さは先天的な要素ではなく、トレーニングによってパフォーマンスは向上できる
- 求められる「足の速さ」は競技によって違う
- スポーツでの足の速さには、ランニング技術とアジリティ技術が含まれます。
- 基礎的な「走る」動作のトレーニングと、競技に特化した「走る」練習の両方が大切。
記事作成にあたっては複数の文献を読み、一般的な知識内容男をお届けするよう心がけております。
ただしスポーツトレーニングには様々な見解があるので、ここに書いてある事が全てではない事をご了承くださいませ。
以前に書いた記事も読んで頂くと、話がより分かりやすいと思います。
お時間のある方は是非どうぞ。
この記事を書いたのは…
田中陽祐(たなかようすけ)
柔道整復師・スポーツトレーナー。にいさと接骨院×からだラボ 院長。
包帯やテーピングを巻くのが大好き。趣味はランニング、山登り。
参考にした書籍はこちら↓
- アスレティック・ムーブメント・スキル −スポーツパフォーマンスのためのトレーニング/Clive Brewer (著), 広瀬 統一 (翻訳), 岡本 香織 (翻訳), 干場 拓真 (翻訳), 福田 崇 (翻訳), 吉田 早織 (翻訳)
- ムーブメントーファンクショナルムーブメントシステム:動作のスクリーニング,アセスメント,修正ストラテジー/Gray Cook (著), 中丸宏二 (翻訳), 小山貴之 (翻訳), 相澤純也 (翻訳), 新田 收 (翻訳)
- ムーブメントスキルを高める これなら伝わる、動きづくりのトレーニング (TJスペシャルファイル)/勝原 竜太 (著), 朝倉 全紀 (監修)
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