今回は、足が速くなるスポーツ理論の2回目です。
選手の皆さんや指導者・保護者の方に分かりやすく「なるほど」と思える記事にしていきます。
足が速くなる基礎的トレーニングを、動画を交えながら紹介したいと思います。
スポーツの基礎トレーニングをする際には、「それが何に繋がるか」がとても重要です。
なので、ランニング動作のメカニクスも少しだけ理解してください。
むずかしそう?
大丈夫。できるだけ分かりやすく説明します。
なお、「足が速くなるスポーツ理論①」を読んで頂くと、今回の記事がよく分かります。
まだお読みでない方は、こちらから是非どうぞ。
動作スキルとしての「走る」
前回の「足が速くなるスポーツ理論①」からの続きです。
必要な「速さ」やそのための技術は競技によって違う、という話でしたね。
ただ「走る」という動作には基本的なメカニズムがあり、それらはすべてのスポーツに共通です。
今日は、その基本的なメカニズムのお話。
一緒に考えてみましょう。
地面反力(作用・反作用の法則)を知ろう
走りのメカニズムの基本は、体で生み出した力を地面に力を伝えることです。
それによって前に進む力(推進力)と、地面から浮き上がる力(抗重力)が得られます。
中学3年生以上の方は、ニュートンの運動の3法則を思い出してください。
「作用・反作用の法則」というのがありましたね。
あなたが地面を押す事が「作用」で、あなたが地面から押し返されるのが「反作用」。
あなたは、地面に力を加えることにより、その反作用によって加速しているのです。
これをスポーツ科学の世界では「地面反力を得る」と言います。
効率的に地面反力を得ることが、足が速くなるトレーニングの基本です。
重心と接地について知ろう
地面反力を効率よく得るために、もうひとつ理解すべき事があります。
それが体の「重心」というものです。
体には重心というものがあります。
重心が体のどの位置にあるか、というと「ヘソのちょっと下」です。
基本的に、重心の真下(ヘソの真下)で地面に力を加えると、効率よく地面反力を得られます。
へその下で地面を押す感覚を身につけることが、走りのトレーニングの基礎になります。
この、重心の真下で地面反力を得るための基礎トレーニングが「スクワット」です。
次の動画を参考にしてください。
※本当のことをいうと、加速するフェーズ(局面)では接地位置は重心の真下ではなく、後方になくてはいけません。
※また、陸上の短距離走と長距離走でも接地の仕方は変わります。
その話は次回にまわします。
力の発揮/トリプル・エクステンション
走る時、大きな力を発揮するのは体のどこでしょう?
それは「下半身の3つの関節」です。
股関節(こかんせつ)・膝関節(ひざかんせつ)・足関節(あしかんせつ)ですね。
この3つの関節を、同時にぐっと伸ばす(伸展する)ことで地面に力を伝えます。
これを「トリプルエクステンション」といいます。
さきほど紹介したスクワットも、トリプルエクステンションを身につけるのに有効なトレーニングです。
この記事で紹介する足が速くなるための様々な基礎トレでは、トリプルエクステンションを意識する事が大切です。
体幹トレーニングで、からだの”構造強度”を高める
地面反力を最大限に活かすうえで大切なことがあります。
それは「体の安定性」です。
いくら地面をつよく蹴ろうとしても、背骨がグニャグニャだったら力は逃げてしまいます。
下半身が安定して力を発揮するために、骨盤や背骨は安定している必要があるのです。
関節には2つの役割があります。
1つは動くこと(可動性の発揮)。
2つ目は動かさずに安定させること(剛性の発揮)です。
背骨は、首から腰まで24個の骨が並んだ構造で、動かせるようにできています。
その背骨を一本の鉄の棒のように(剛体として)機能させることで、力をきちんと発揮・伝達できます。
もちろん全く動かさなければ走れないので、適切な剛性が必要という事です。
先ほどのスクワットの動画をみてください。
上半身は一つの安定したパーツとして機能していますね。
スクワットは、下半身で力を発揮しながら体幹は安定させる、という状態を習得してもらうためにおすすめしています。
力をうまく伝えるためには
体の安定性を作るために、コアや体幹の補助的トレーニングを行いましょう。
次のようなトレーニングがあります。
プランクは、意味を理解して、正しく行う事が大切です。
ちょっと角が立ちますが、世の中には「あまり良くないプランク」がはびこっています。
スポーツ力学をきちんと理解しているトレーナーからレクチャーを受けた方がいいです。
マウンテンクライマーは、股関節を動かしながら体幹を安定させる感覚を習得できます。
また、後々「ウォールドリル」という加速トレーニングに繋げられるのが良いところです。
この話はまた次回に取っておきましょう。
足が速くなる接地「アクティブ・フラットフット」
速く走るためには、地面と足がどんな風に接すると良いでしょう?
ちょっと考えてみてください。
さまざまなケース・見解があると思います。
ただ、この「アクティブ・フラットフット」は身につけておいた方が良いと思います。
こんな接地の仕方です。
ほぼベタ足に見えますね?
でもほんの少しだけカカトが地面から浮いてるんです。
だいたいクレジットカードが一枚入るくらい。
なので、この接地の基本原則を「クレジットカード・ルール」とも呼びます。
走る時の基本の接地がこれって意外じゃないですか?
スポーツをやっていると「母趾球のあたりだけで接地しろ」と言われることもあります。
競技によって様々なケースがあるので「クレジットカード・ルール」だけが絶対とは言えません。
ただ、実際に身につけてみると、この接地の方がしっかりと地面を押せます。
地面を押すなら、狭い面で押すより、広い面で押した方が良いのです。
「こういう体の使い方があって、出来ると良いです」という形でお勧めしておきますね。
実は、最初のスクワットの動画も、ベタ足に見えてクレジットカード1枚分カカトが浮いてます。
そうやって、基礎トレの段階から「アクティブ・フラットフット&トリプルエクステンション」を体に染み込ませます。
この先紹介するエクササイズも、慣れてきたらこの接地で行うと良いと思います。
脚の切り替えエクササイズ
スクワットは、地面反力を得る感覚を身につけるには良いトレーニングです。
導入として、ぜひ取り組んで欲しいです。
ただ「走る」時は、両足で地面を押すわけではありません。
両脚で地面反力を得る感覚を身につけたら、今度は片足で地面反力を得る練習が必要です。
次のような「脚の切り替えエクササイズ」を行います。
まずは台を使ったエクササイズをやると良いでしょう。
しっかり台を押す事で、トリプルエクステンションを意識できます。
このドリルで大切なことがあります。
それは、台を押す方の脚(支持脚といいます)が伸びるのと「同時に」「一瞬で」反対の脚をあげることです。
台に乗った方の脚で台を押す時に、反対の脚が「自然とあがる」感覚を感じながらやってみてください。
踏みこむことで自然と足が「入れ替わる」感じです。
台を使って切り替えの感覚をつかんだら、台無しにして一瞬で切り替えてみましょう。
この「脚が自然と入れ替わる感じ」が身につくと、実際のランニング動作がけっこう変わると思います。
ランニングでの脚の使い方につなげる
実際のランニング動作でも「ももあげ」状態で走っている人がいますが、これはあまり良くないです。
支持脚を地面に「タッ!」と振り下ろす事で、反対の脚は自然と上がるものです。
もちろん「もも上げ」練習も、やり方によっては効果的ではあります。
しかし多くの方の場合、モモを上げようとして腰が丸まってしまい、走りにブレーキがかかっています。
実際のランニング動作でも、脚は「上げる」意識ではなく「下げる」意識をしましょう。
「脚の切り替えエクササイズ」は、それを身につけるのに有効です。
また、陸上のスキップ系の練習や、球技における加速トレーニングの基礎にもなります。
このエクササイズでも、体幹の安定を忘れずに意識しましょう。
慣れてきたら、腕振りもつけてやってみましょう。
充分できるようになったら「アクティブ・フラットフット」で行ってみてくださいね。
今回のまとめ
今回紹介した基礎トレーニングは、走りのメカニズムを習得・向上するうえで有効です。
基礎トレーニングを実際の走りにつなげるトレーニングの紹介は、次回以降の記事で!
1週間後くらいには第3回の記事を投稿できると思いますので、もしよろしければご覧ください↓
長くなったので、箇条書きでまとめます。
ちょっとだけ思い出してみてくださいね。
- 走る動作の基本的なメカニクスはすべての競技に共通している
- 速く走るためには、地面反力を効率的に得ることが重要
- 地面反力を得るトレーニングの基礎として、重心の真下に力を加える練習をしよう
- トリプルエクステンションで地面反力を得る感覚を身につけよう
- 基礎トレの導入としてスクワットが良い(ひとつだけあげるとしたら)
- 力の発揮と伝達には、体の安定性が必要(補助トレをしよう)
- アクティブ・フラットフットを身につけよう
- 脚の切り替えエクササイズは次につながるので大事。
記事作成にあたっては複数の文献を読み、一般的な知識内容男をお届けするよう心がけております。
ただしスポーツトレーニングには様々な見解があるので、ここに書いてある事が全てではない事をご了承くださいませ。
以前に書いた記事も読んで頂くと、話がより分かりやすいと思います。
お時間のある方は是非どうぞ。
この記事を書いたのは…
田中陽祐(たなかようすけ)
柔道整復師・スポーツトレーナー。にいさと接骨院×からだラボ 院長。
包帯やテーピングを巻くのが大好き。趣味はランニング、山登り。
参考にした書籍はこちら↓
- アスレティック・ムーブメント・スキル −スポーツパフォーマンスのためのトレーニング/Clive Brewer (著), 広瀬 統一 (翻訳), 岡本 香織 (翻訳), 干場 拓真 (翻訳), 福田 崇 (翻訳), 吉田 早織 (翻訳)
- ムーブメントーファンクショナルムーブメントシステム:動作のスクリーニング,アセスメント,修正ストラテジー/Gray Cook (著), 中丸宏二 (翻訳), 小山貴之 (翻訳), 相澤純也 (翻訳), 新田 收 (翻訳)
- ムーブメントスキルを高める これなら伝わる、動きづくりのトレーニング (TJスペシャルファイル)/勝原 竜太 (著), 朝倉 全紀 (監修)
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